北澤 繁太さんのレビュー

マルガリータ (文春文庫)
村木 嵐 (村木 嵐) 評価5.0 点 平均(5.0)
  • 出版日:2013-06-07
  • 種類:文庫
  • ISBN:4167838591
読書タグ: 天命  政  天正遣欧少年使節 

評価5.0 点 (5.0)

投稿日 2017-01-20 04:46:24

【爽やかな読後感を残してくれる素晴らしい作品だった。】

織田信長が天下統一を目前にして本能寺で殺される半年前のこと、天正遣欧少年使節としてローマに派遣された四人の少年たちがいた。八年後、司祭になる夢を胸に帰国した彼らを待ち受けていたのは、禁教と弾圧だった。

ローマへの正使に任じられた十三歳の千々石みげると伊東まんしょ。副使として同行した十一歳の原まるちのと十四歳の中浦じゅりあん。四人のラガッツィ(少年)は八年後にシニョーリ(紳士)となり日本に帰ってきた。

天下は豊臣秀吉のものになっていた。南蛮びいきだった織田信長と異なり、秀吉は天主教(キリスト教カトリック)を一顧だにしなかった。大きく舵が切られた日本に戻って、運命の変転に巻き込まれる千々石みげるたち。

それまで最も縁遠かった「政(まつりごと)」の世界で翻弄される千々石みげる。天正遣欧少年使節として身も心もともにしてきた四人のラガッツィ、いやシニョーリにやってくる身の別れ。それでも心はいつまでも一つ。

それぞれが、それぞれの為すべきことをやり遂げる。抗いようもない残酷な運命に翻弄されながら、それでも己の使命をまっとうしようと努める四人。たとえ、死という身の別れが訪れようとも心は一つ、いつまでも一つ。

物語に一本の軸を引くのが、千々石みげるあらため千々石清左衛門となった男の妻、たまあらため珠(たま)。清左衛門が政に翻弄されるのと同じく、珠もまた天主教を信じる者の思考回路が理解できず、影ながら苦しむ。

妬み、僻み、恨みといった感情の先で珠を待ち受けているものは何なのか。珠に救いはあるのだろうか。司祭のような立場でなくとも、市井の人々でも果たすべき、いや市井の人だからこそ果たすことができる役割がある。

「今のこの国はマリアではならぬ。皆、マルタにならねばならぬのだ」

重たい史実を扱った物語でありながら、最後は爽やかな読後感を残してくれる素晴らしい作品だった。同じテーマを扱う若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』は最高の作品だが、物語としてはこちらが上回っていると思う。

北澤 繁太さんの読書タグ: 天命  政  天正遣欧少年使節 

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